活躍中の卒業生に聞いたパレットクラブの魅力

いとう瞳

2期イラストコース卒業

いとうひとみ…千葉県生まれ。武蔵野美術大学版画コース卒業。書籍、広告などで独特な色使いのイラストで活躍中。02年HB FAILEコンペ・鈴木成一賞受賞。TIS会員。
http://www1.odn.ne.jp/colorparty/

●パレットクラブ スクールに通うまで

子供の頃からイラストレーターになりたいと思い続けながらも、美術大学では油絵学科を選択し、途中からはイラストレーションの方向を意識して版画コースに進みました。作品制作に対して基本的な技術や技法はこの期間に習得する事ができたのですが、本当に描きたい絵と方向の違う環境だな、というのは実感していました。卒業後も絵を描けるアルバイトをいくつか続け、社会の中で描くという事を経験しましたが、その場で必要とされたのは主に匿名性のあるタッチと早さ。私はそういう仕事を続けていけるタイプではないと感じていたし、大学時代からイラストレーションと壁一枚隔てられたような微妙なジレンマの中にいたので、とにかくまずは一度、イラストレーションのスクールに通ってみよう、と思いました。パレットクラブ スクールは『イラストレーション』誌の広告を見て決めました。

●パレットクラブ スクールに通って

まずイラストレーターという同じ目標に向かっている人達と一緒にいるだけでも刺激になりました。自分への講評はもちろん、クラスメイトの講評も進化も見られる事は、「いろんな絵の中にある自分の絵」という客観視の勉強になったと思います。最初は木版画や版木に描いたり、画材に特徴を持たせた表現方法だったのですが、多くの講師の意見を聞いていくと「どうやら私は色に特徴があるらしい」と気づき、途中からは画用紙に絵具で描くというシンプルな技法になりました。思ってもいない課題が出たり、毎回替わる講師陣に指摘されたり誉められたり、為されるがままにとにかく通ってみると、川に流されて丸くなっていく小石のように、不思議と自分の中の余計なものが取れていった気がします。

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●授業

デザインをする立場からの講義は、今でも頭をよぎる事があり参考になりました。売り込みに使用する作品ファイルの作り方や、ペンネームに関してなど自分自身の見せ方の話もありましたが、そうは言いつつもやはり所詮仕事は人間性、という社会人としての基本的なお話。また、お題に沿ってその場でパパッと描くというゲームのような授業では、考えすぎないことで自分の本来の絵に気づかされました。「手法が違っても考え方や捉え方でその人らしい表現はできる」という教えも、印象深いお言葉でした。そして、イラストレーターを目指すにあたって、自分をお店に例えるという原田治さんのお話は、実際に自営業として生活していく上ではとても貴重なお話でした。どの先生がどの絵に目を留めてくださるか、それも密かに確認していました。

●最初の仕事

新潮社装幀室の大森賀津也さんが講師でいらしたのをきっかけに、パレットクラブ卒業後売り込みに行き、しばらくして群ようこさんの文庫カバーのお仕事をいただきました。明るく楽しいポップな世界で、挑戦してみたかったタイトル文字も描く事ができ嬉しかったです。そして、卒業生みんなで作った一冊の売り込みファイルからは『オレンジページ』内のイラストマップのお仕事が来ました。また卒業数ヶ月後にパレットクラブの勧めで『anan』編集部に売り込みに行く事に。自分では女性誌に向いていないと勝手に思い込んでいたので、不安なまま売り込みに向かいましたが、半年以上経った後に、いろいろな女性のタイプを数人描くというお仕事を頂きました。自分の中のイメージだけで売り込み範囲は決めない方がいいなぁ、とつくづく思います。

●仕事

主な仕事は、書籍カバー、雑誌表紙、挿絵、広告などです。書籍関係のミステリーでは少々怪しさを忍ばせたり、抽象的に構成した絵も描いています。俳人・長谷川櫂氏の週刊誌連載で版画の挿絵を担当したのがきっかけでトークイベントに呼んで頂いたり、九州電力のCMでは自分の絵がアニメーションとなって動くという初めての制作現場に緊張したりもしました。今後は新たに、パターンを使用したテキスタイルや、日常的に使うものへ自分の世界を展開してみたいと思っています。

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『小さいおうち』
著/中島京子、装画/いとう瞳、装丁/大久保明子(文藝春秋)

●講師として生徒さんへのアドバイス

卒業して10年以上経った今でも、あの教室に入ると生徒だった当時を一瞬にして思い出しそうですが、私も自分の事を振り返り、身近な立場としてアドバイスが出来たらいいなと思っています。生徒さんには、後々「有意義な時間だったなぁ」と振り返ることができるよう、パレットクラブで大事な何かを見つけて欲しいですね。